名前盗みはいつもその人の
一字だけをガリガリと齧り取る
決して全部は食べない
いろんな味を試したいから
名前盗みに名前を齧られると
そこだけぽっかりと
まるでそれすら名前の ....
約束の時間になっても
あまがえるは姿を現さなかった
もうすぐぽつぽつと青苗が植えられる水田は
今日の雨を十分に吸収して
ちょっとした池の様だ
ゲコゲコ
申し訳なさそ ....
そろそろ準備をしとかないとね
あまがえるは僕にそう言った
明日からなんだ
あまがえるは少し嬉しそうだ
まだ大きな声は出せないんだけど
あまがえるはそう言いながら立ち上がって
....
旦那、いい酒飲んでるねうまそうだね
汚い身なりをした老婆がそう言った
あんた臭いね、なんとかしなよ
ゲヘヘ、ゲヘヘ、老婆は気持ち悪く笑った
旦那、あんたみたいな人は
きっと毎日 ....
蛸男と偶然すれ違った
僕と君たちと一体何が違うって言うんだ
開口一番蛸男は僕に突っかかってきた
何も違いやしないさ
君は十分に魅力的だよ
当たり障りのない言葉を返すと
....
逃避行ロケットに乗って行こうよ
火星なんかがいいんじゃないか
知ってるかい
あそこには何でもあるんだ
地球に送られる映像は
やつらが勝手に作ってる
お父さんに挨拶はしない方 ....
青色の幻覚に
溶け込んでいくよ
白い機体が
溶け込んでいくよ
ふわ、ふわ、ふわ、ふわ
飛行機型のラムネみたいに
少しずつ粉を溶かしているみたいだ
機体の証を記すよう ....
地球に降り立った天使は
神様に間違われ
みんなにちやほやされて
子どもたちの教科書に載ったりもして
毎日毎日良い気分
ある日真っ黒なカラスに乗って
悪魔がやってきた
....
接線のように地球にかかる
真っ直ぐ虹
バランスを取りながら
悪魔と天使が綱渡り
悪魔の渡った後の虹は
真っ黒色に染まり出す
天使の渡った後の虹は
偽善者色に染まり出す ....
カフカが並んだ僕の部屋の本棚を、君は丹念に本の背をなぞりながら、「一冊だけ足りないわね」と言った。
カフカは結局たくさんの未発表の作品を遺して死んだ。それはつまりカフカの作品数を正確に把握できな ....
カフカが並んだ本棚をなぞりながら
一冊だけ足りないわねと
君は言った
僕はどの本が足りないのか知りたかったけれど
君の興味はもう既に他の物に移っていて
きっと尋ねても無駄なんだ ....
トントンとドアを叩く
あまがえるが立っていた
雨が降りすぎてねぇ
しばらく雨宿りさせてくれないか
あまがえるは
びしょびしょの体をタオルで拭いて
どっかとソファに座り込んだ ....
三百四丁目の博士の家に行くまでに、僕は三十回くらいもう諦めようかと思ったけど、二百五十丁目の看板が見えたときには、なんとかもう少し頑張ってみようと思い直した。
博士の家に行くまでには、一丁目から ....
彼から電話があったのは、すっかり眠りについて、そろそろ楽しい夢でも見れそうだなと思っていたあたりだから、夜の2時くらいだろう。とにかくこんな時間に電話をかけてくるということはそれほどいい連絡でないこ ....
ドアをとんとんと叩く音が聞こえたので、ギシギシ言う古いドアを開くと、あまがえるが立っていた。
「雨が強くてかなわねぇ。旦那、ちょいとの間雨宿りさせてくれねぇかね。」
僕の部屋はそれほど大きい ....
【女】
あまがえるが恋をしたからって
雨が止むわけでもないけれど
どうせ降り続くなら
恋をしたあまがえるの時がいいわね
【男】
耳そうじのやり過ぎで
三半規管が ....
黒猫の腸はとても長いっていうから
綱引き縄の代わりに使ってみたんだ
ぬるぬるしていることは事実だよ
それはとても握りにくいものではあった
だけどそれなりにコツを掴めば
ちゃ ....
今朝は少し寒くて
息をはぁってやったら
一瞬で凍り付いて
まるで刃みたいになって
そこら中に飛んで行って
隣のおばあちゃんがまだ眠ってるって言うのに
勝手に窓を突き破って
....
【一回り目】
あんたついに目ェ回したね
ぐるぐるぐるぐる回ってりゃあ
そりゃ目も回すさ
今夜はもうその辺にしときなよ
【二周り目】
道理であんた似てるねェ
ふう ....
鯨が大きなあくびをしていたから
試しに中に入ってみたんだ
そこはピンク色で
もごもごした物がたくさんいて
うん、なかなか悪くなかった
僕はせっかくのことだから
しばらくここに住んで ....
昨日世界が終わった後の話だけど
僕はいつものように夕飯を食べて
居間でテレビを見ていたんだ
どのチャンネルも
世界が終わったことについて
特集をやっていたけど
一つだけ
子 ....
人間に恋したカメレオン
叶わぬ恋だと知ってはいたが
毎日毎日恋焦がれるうちに
想像妊娠をしたカメレオン
二人分たくさんご飯を食べなきゃならない
二人分たくさん水を飲まなきゃなら ....
ゆきふらしはやっとこさ
目を覚ました
去年頑張りすぎたから
いつもよりたっぷり眠った
朝ごはんを食べて
歯を磨いて
お出掛け用の一張羅の服に着替えて
今年も仕事に取り掛 ....
パパにおねだりして買ってもらった
世界
始めはとても小さくて
なかなか言うことを聞いてくれなかったけど
だんだん躾を覚えてきて
今じゃちゃんと言うことを聞く
あたしが小さな ....
こうやって一つずつ年が離れていくんやね
来年になったら
また一つ年が離れて
うちが十年たっておばさんに近くなっても
あんたはあの頃のままのあんたで
うちらの年だけがどんどん離れてい ....
あんたがあたしに言うたこと
お母ちゃんに聞かしたら
そんなん二度と言うたらあかんて言われた
結局どういう意味やったんか分からへんけど
あんたはあたしを侮辱したんやな
それはなんとの ....
あんたの腕から
しなだれ落ちる
赤い糸を辿っていったら
どこに辿りつくんかな
いろんな女のとこ
ぐるぐる廻りながら
なかなかその先が見えてこうへん
女の人が多すぎて
....
一人の少年が少し前を歩いている友達に
石を投げた
石は彼の頭にぶつかって
その友達はとても痛がった
その様子を見た少年は
腹を抱えて笑った
石をぶつけられた友達は
少年 ....
息子が戦場へと行く
それを彼の父親と祖父が見送る
私はどうして息子が戦場に行くのかを知らない
私は何度も自問する
なぜ息子は戦場へ行かねばならない
なぜそのことを私は知らない
息子は父親と ....
女は雨の中を、願いを胸に抱き走り続ける。女の残す素足の跡が、雨の路に流れる。長い黒髪が雨に濡れる。滴り落ちる水音が誰もいない神社に響き渡る。
雨は止むことがない。低気圧が男にすがる愛人の様に停滞す ....
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