僕の旅はこの町で終わるのだろうか
この雨降らぬ町の名はなにか
この町で捕えたツバメ
を掌の中に隠す
いらだたしい感覚と暑さを忘れる
放ったつもりが 手元からポトリと落ちた
死ぬつもりだ ....
この雨降らぬ町の名はなにか
私の旅はこの町で終わる
のだろうか むかし栄えたこの町で
僕の食料は残り少ない
干し肉と一かけらのチーズとわづかな水
深夜僕はこの町に着いてそれらを食べた
....
ため息も聞こえず
足音もとだえた
この野原には夜しかない
野原 命をはぐくむ野原
がない女たちはうごめき
悲しむ
私が報告をしなければならないだろう
これは悲劇的なことだ
私が ....
まず死を見に行く
コントロール出来る死をいただく
痴呆症の祖母から
工事現場でつまづく
茶色の家並みのくねる道に隠されている町
工事現場でつまづく
痴呆症の祖母から
コントロール出来る死 ....
耳の後ろが赤く膨れ上がり
朝焼けのように拡がり
蕁麻疹が広がる
意味の分からない恐怖をかんじる
湿地帯の高い草の中で
白い水鳥の環視の中で
叔母は叫び声をあげる
意味の分からない恐怖をか ....
試みに彼の鞄を持ってみる。
牛皮製らしいそれは大きさばかり目立つが相変わらず軽い
きっといつものように家族が入っているのだろう
そのことは彼から聞かされている
彼は信用するに値する人物なのだ
....
押し寄せる声に
紺青の声に
おののく 震える海をおびやかす
流れがある
言うまでもない流れへ
流れてゆく ゆったりとしたパジャマ
の少女
を見送るのは僕だ
僕にはその責任があるから
....
父と母の物ではない
母の物は
真昼に閉じた雨空
滑空する白色の鳥が堕ちる
その日から父と母は憎みあう者になる
母の影が覆いつくす町
母が湿地帯に詩を隠す「書かれた町」
母の影が覆いつくす ....
夏を見て次の春まで筆を置く
濁流も流れと数え現代詩
創られぬ夜を草木の夜と知り
恋文も届かぬ国の地図を見る
山を見下ろす黒き鳥影
(父、父、お父さん、と泣く声が聞こえるがあれは誰の声であろう)
(息子か、ならば過去からの声か)
(父か、ならば冥界の声か)
父は失踪をくわだてた
湿地帯の臭気が漂う家族から
父の体臭が漂う ....
墓地へ駆けてゆく
姉を二階の窓から見た
学校の制服を隠したのを
姉の埃臭い制服
血の付いた便器にしゃがんだ
汗のにじむ掌で鈍く赤い
姉の隠し持つ勾玉
汗のにじむ掌で鈍く赤い
血の付いた ....
兄は無口になる
暗さが増してくるこの頃
筋肉を持て余し
内部の膨張を持て余し
彼岸花の咲く川縁は
自転車を押して入る
鷺が落ちるように飛ぶ濡れた地帯
自転車を押して入る
彼岸花の咲く川 ....
?.
逃げる父
母は捨てた
兄は堕ちた
姉は隠した
子どもは愛されている?
?.
高い水草の生える湿地帯で生まれた男や女は
高い水草の生える湿地帯で外を向いて車座になった
....
海を埋め尽くす無数の海獣
それらの移動に
海は慄き
激しく毛羽立つ
逆巻く海鳥の交尾
海獣の胴震いに振り落とされもせず
雌鳥は厚い皮膚の皺の狭間に産卵する
そして独身ものは空中を埋め ....
雪崩 老樹 飲みこみ 夜となる
日々凍る おのが命や 鉈一つ
右の手に 乗るはずの独楽 くうへ逸れ
炎をば 凍らすと言う 痴れ者は
荊棘(ばら)を摘む掌のなかにだけ朝はある
そのまへの夜そのあとの夜
*
駆けている 少女は服をぬぎすてる
むねにはことば あしあとはきへる
*
....
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