ふらちな黄泉乃国から来る男は
死んだ者を無理矢理叩き起こし
不届き者の口からなにごとか聞こうとする
その行為 その汚らわしい行為に
足元から鳥肌起つ岸辺に立つ
ここは泉か 言の葉の埋も ....
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「火の森というものがある」と父が教えてくれた。私が火山の調査のためヘ ....
粘土と唾液で造られた都市から悪臭が漂って来る
鼻の詰まった男達が希望を語り合っている
酷く発達した上腕筋
愛撫はハンマーの一殴りだ
雷鳴の方角を探れ ひび割れた夜空の
耳垢だらけの男達 ....
ひとつ
ひとり
ひみつのじかん
ふたつ
ふたり
ふんわり じかん
みっつ
みんなで
みかづきのよる
よっつ
よっぱらって
おいけに どぼん
斑鳩の飛ばぬ夕べがあり
甍の高いこの寺は崩れる
僧どもは眼病に侵され
いまだ訪れぬ仏達を信じ得ぬ
在り得ぬ時代の熱い聖地で
禁断は男や女の喜ぶ寝床
夜は過去の阿闍梨を招くのだ
彼の行 ....
川で
二艘の小船が出会った
船頭は一人ずつだ
だが一艘は自転車を積んでいるのだ
川は驚きに流れを停めてしまう
よく見れば自転車はさかさまになっているのだ
川は植物のふりをする
船頭たちは ....
1.
この暖気は彼方から来る
唾液の滴る地平より
巨大な湿地帯を通りぬけ
じかに私の肺臓に進入し
私を喜ばし慰める
この暖気は途絶えることがない
凶暴な森林を通過し
世界の不安な脇 ....
浅瀬の悔恨
波打ち際の羞恥
足もとの砂をさらってゆく喪失という名の波
これ以上
ぼくをなぶって何とする
これ以上
ぼくをあざけり何とする
邪悪な眼で見られてしまった。
避けようもなくあまりに無力だった。
もう遅いのだ。
一匹の鹿がこちらに近付いて来る。
あの角は獰猛(どうもう)だ。
なぜ人はそれに気付かない。
あの足取り ....
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造船家の仕事部屋は紙と鉛筆と分割器が置いてあるだけだ
そして窓の夕暮れの光 ....
海図を広げ ありえぬ海域をめざす
日没には出発せねばなるまい
もはやこの港も甘い母乳色の波が立っている
錨を上げ 滑らかな鉄にしがみつく牡蠣をとる
晩餐に間に合うように
夜が甲板にも帆に ....
焼けた石の上を滑らかにすべる水銀。
光ったかと見えてそこにはない。
それは一匹のトカゲ。
生き物である事を頑なに拒否する。
草むらに放られたまま忘れられたナイフ。
発見からまぬがれる殺人 ....
喉を締める その女の喉を
こうしなければ という切羽詰った感情が俺の手にこもり
喉を視ているが 女の顔は分からない。
胴から下はさらに心許ない。
ちゅうちょは出来ない 始めてしまったものは ....
紅鶴をご存知だろうか
災厄という災厄を一身に引き受け
苦笑いをしている
あの嫌な鳥である
この鳥はしかしなかなかに美しい
羽など一枚も生えていないし
尾もない
何よりこの鳥には頭部が ....
白兎は視界から消える
羞恥にまみれ しかも無防備に
何も見ていない兎の目
盲目の充血が痛ましく雪原に消える
去った後に残されたもの
耳を覆いたくなる残酷な幼い声
汚らしい食い残し
お ....
荷を負う人々の足
裸足の足裏に小石のむごく食い込む
しかし頓着はない
人々が見上げているのは一羽の鷹
苦役に口を開き
前後の者を探す目は黄色い
荷の重さは一刻一刻と肩を歪め
頭上に日 ....
転がる空き缶を追う犬
犬は追う生き物だ
しかし犬は追わない
目前の暗闇を
餌の残りを掘った穴に隠す犬
犬は穴を掘る生き物だ
しかし犬は掘らない
飼い主の墓穴を
わたしはそれを不 ....
隠さなければいけない過去。
隠されてしまう過去。
脂汗が流れるときだ。
見つかってしまったポートレート。
今朝わたしは一匹の蛾を発見した。
それは見事な蛾だ。
たれもみつけられない た ....
机から滴り落ちる水
机には陶器の水差し
水差しの中に一匹の金魚
ブロンズのように沈む
誰も覗かない部屋の誰も触らない机
その上の誰が置いたのか分からない水差し
金魚は目を閉じて永遠にひ ....
わたしが蝶であるなら
世界がむき出す筋肉の紫の静脈の盛り上がりを
ペロリと舐める
その時の世界の激しい快感を 想像出来る
わたしが蝶であるなら
世界が秘めている恥部 その柔らかく熱い粘膜 ....
合歓の木の上で眠りをむさぼるふらちな内臓
不透明な猫が目覚めたところだ
今そこにいた所に白っぽい魂を残して
静かにとなりの木に移る
走り去る猫
睾丸は膨らみ過ぎて目玉と区別がつかぬ
瞳 ....
ある土地
最も重要な事件の起きた土地であり
最も重要な時間が流れた
ある土地の名
ある時代
名の付いた時代
不幸と幸福が仲良く住み着いた
誰もが知る時代
貧血の草茫々と黒い家並 ....
ひざからしたはスネだらけ
ひざからうえはモモだらけ
スモモモモモモモモノウチ
スモモモモモモモモノウチ
かたからつづいてウデだらけ
かたからつたってワキだらけ
ウキウキ スルノモ イマノ ....
わたしの手紙はビンの中。
海原浮いて届きます。
わたしの手紙は風船に。
雨雲さけて届きます。
わたしの手紙はあてもなく
あるとき誰かに拾われます。
あるとき初めて読まれます。
スポーツのような真昼。
停止すべき者へ慰みを贈った
健康的な半裸の男(声はない)。
シンナーの臭いは坂の途中で会う女。
足をぬぐう女。
育児書を引き裂く女。
過去の頂点を崩す女。
それら ....
風のバラ
とはわたしの愛した詩人
の五月
をうたう冒頭のことばだ
しかし
肉厚の花びらをかさね
内部へ密度を増す花は
きみに似合っていない
むしろもろい花弁に
あざやかな色彩で
緑 ....
五月の饗宴は
フラ・アンジェリコの描いた
受胎告知
のあの場所で始まる。
すでに
マリア
もガブリエルも
いない。
しかし緑色の光線にあふれて
紫色の影が遠近法の柱を飾っている。
....
きみは知っていたはずだ
いつまでも続く四月の午後
ぐっすりと眠り込んだきみの額に
ぼくの夢は文字をつづった
きみは知っていたはずだ
森はとうとつに緑の下着をまとって
ふりむくと花はひら ....
渚に沿って縫い目をつくる。
波打ち際の踏み越えられぬ境界が震える。
連続する性の向こう側から来る者に朝食の支度をする。
連続する性の向こう側から来る者は
連続する生の向こう側から来る者だ。
....
東京の山中に梅花をさがす
そのための前夜祭がおこなわれた
きみは友だちと肴を集めた
ぼくはウィスキーと葡萄酒を用意したが
梅酒のないことを悲しんだ
宴たけなわ
酒と肴の上に
三月の雨 ....
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