新しく命が死んで
また少し地球は軽くなり
太陽に近づく
また一つ
また一つ
また一人分
また一人分
地球は軽くなる
時折生まれる新しい命は
重しのように ....
童子よ
その昔
お前がまだ胎児になる前
私は一つの過ちを犯した
童子よ
重たくなるお腹に
私は言いようもない義務感と矛盾で
一体何が入っているのか分からなくなるとき ....
いつも行く公園で
ちょうど首を傾げた時に
北斗七星が一番きれいに見えるところに座って
近所から漏れる夫婦喧嘩の声を聞く
夜の中を
二人の声は
礼儀を知らぬ新入りのタクシー運 ....
蚊に咬まれたとこを
ぽりぽりかくから
皮膚がぼろぼろと落ちてくる
勿体無いから
集めて、練り固めて
ちっちゃいあんたを作って
あたしのペットにする
ペットは飼い主に似る ....
さあさあ始まる、始まるよ
嬢ちゃん、坊ちゃんみんなおいで
ほらほらお菓子も売ってるよ
最後までいた子にはただであげるよ
ほらほらみんな喧嘩しちゃいけない
おじちゃんの話をよおく ....
夕暮れ時に
死体が上がったと
町の漁師たちが言っていた
私はきっと
昼間のあの旅人が
死んだのだろうと
思った
きっと彼は海を見つめて
スケッチブックを開いて描 ....
隣に座った旅人に
何処に行くのですかと聞いたらば
にこりと笑みを返された
なんだかそれがとても
尊い物のような気がして
私もご一緒していいですかと
たずねた
旅人は笑って首を振っ ....
あまがえるたちの追悼の合唱が
真夜中の公園に響く
ゲコゲコ、ゲコゲコ
とても悲しそうな声に
僕は胸が詰まりそうになる
ゲコゲコ、ゲコゲコ
音が止む
黙祷 ....
果実を齧る
あなたの首筋には
薄紫の線が浮かぶ
私はその首筋に
かぶりつきたい衝動を抑えて
おいしいかいと
あなたに聞く
あなたは
貪り尽くすように
果実を ....
久しぶりじゃないか
思わずそう言った僕の方を
あまがえるは振り返る
久しぶりのあまがえるは
少し痩せて見えた
仲間の合同葬儀なんだ
彼はそう言った
この ....
頭の中に棲む蚊が
チクチクと針を突き刺す
かゆくてかゆくてたまらない
だけど手が届かない
たっぷりと血を吸った蚊は
大きくなったお腹を抱えて
横になる
私は彼女の眠りを ....
無邪気だったのよ
お土産の作り物の塔の欠片を
指でいじりながらそう言う
きっと無邪気だったのよ
もう一度君は言った
外を行く人たちが
笑ったり怒ったり
無表情だったり ....
クソみたいな言葉を読み
クソみたいな感動を受け
クソ同然の思想を吐き出し
同列、同族、共有する
同じ色に世間は染まり
違う色は説得され
同化の促進
そして一色の世界へ ....
目玉磨きは今日も目玉を磨いてる
キュッキュッキュッ
キュッキュッキュッ
黒い目玉に茶色に緑
青い目玉に疲れた赤目
毎日毎日忙しい
夜になると
こっそり瞼を押し上げて
せっせせっ ....
あなたのことが好きだと云うと
きっとあなたも
そうだと云うでしょう
それが分かっているから
私は何も云えません
好きという言葉は
重いのですね
私が唇まで
なんとか ....
いつかの駐車場猿から
手紙が届いた
こっちはなんとかやってるよ
そっちと比べて数が多いから
多少大変だけどね
僕は淹れたてのコーヒーを飲みながら
何度かその手紙を読み返 ....
駐車場の猿と一週間ぶりに出会った
整列、点呼
前と変わらず厳密な声が響く
相変わらずやってるね
僕は猿に尋ねる
もう毎日のことだからね
その辺の軍隊よりも
....
古い換気扇の羽のところに
ツバメが巣を作ってる
チュンチュンチュン
母さんご飯を頂戴な
チュンチュンチュン
僕にもご飯を頂戴な
窓に糞の跡が垂れていて
元気な赤子の ....
食べてすぐに横になったら
牛になった
あんたいい牛だね
人々は私に尋ねる
一番美味いところはどこだい?
牛になったばかりで
まだあんまりよく知らないんだ
私は正直に ....
青い顔をした海が言いました
そんなに思いつめて
どうするんだい
あんたの顔色に比べりゃ
幾分かマシさ
私はそんな風に答えました
海の中に太陽がジュジュジュと沈んで
....
あんたが欲しがるもんは
全部あげた
せやろ?
欲しいもんは
全部あげた
あんたが欲しがるもんを全部あげたら
あんたはもう何にも欲しがらんようになった
あたしが何を聞いて ....
今年も川上から
棺が流れてくる
棺流しのおじさんが
一つ一つ流していく
棺流しのおじさんは
いつも無言で棺を流す
時々話しかけてみるけれど
にこりと笑みをこぼすだけ
....
この石ころは
どっから来たんかな
遠い遠いまだ教科書でしか見たことない
ヨーロッパとかから
来たんかな
学校帰りの小学生や
ちょっとムシャクシャしてたおじさんや
いろん ....
ねえママ、あれが欲しいよ
いい子ね坊や、大人になったらなんだって手に入るわ
だから今は我慢しましょうね
僕はそんな風に
子ども時代をただ我慢することで
過ごしてきた
毎日毎 ....
あなたの死ぬ時間をお教えしましょうか
隣のベンチに座った紳士が私にそう言った
面白そうですね
是非聞かせてください
紳士は答えた
それで
それは何年後の何日ですか
....
生まれたとき僕らは一人残らず
目玉の手術を受ける
僕らは始め誰も目を持っていない
昔の人にはあったんだ
だけどそれは真実を見出すことさえできなかったから
そのうち退化しちまった
だ ....
十九日鼠がぼやく
後一日我慢すりゃあよかったんだよ
三日鼠が反論する
あんたはいいよ
俺なんてもうどうしようもないぜ
二十日鼠はそんな二匹の会話を聞いていた
十九日鼠はまだ悔やんで ....
整列、点呼
僕の車しか止まっていない駐車場から
大きな声が聞こえてきた
一、二、三、四・・・
きびきびとした張りのある声が響く
一匹の猿が厳しい目で
小猿たちの点呼を確 ....
あんたに似た人がおったんよ
なんやヘラヘラ笑ってて
生きてても死んでてもどっちでも
ええようなやつや
そんなやつが生きてんねんやったら
あんたがそいつん中入って
それであん ....
お箸を持つほうが右で
お茶碗を持つほうが左で
今はご飯の時間じゃないけれど
右手と左手を出してみて
童子はそうやって右と左を確認した
右は強者だけが生き残る世界
左は弱 ....
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