兄に会ったのは、一年振りだ。
子供の頃は世間並みの兄弟として過ごしたが、今となっては用でも無ければ会うこともない。端的に言ってしまえば、そういった間柄なのだ。去年と同じく、盆に逝った親父の三回忌 ....
植木鉢を抱えている人が増えたね。
カミオは、トットに二杯目のワインを薦めた。このレストランで、一番の売れているワインだ。店が売り出しているということは、利益率が高いか、美味いかのどちらかだろうと ....
酔客の話は、とりとめのないことばかりだ。自身の酒の勢いも手伝って、話がどんどん流れていくように感じる。ある時、聞いた話を思い出そうにもうろ覚えで、またその話を聞いた相手もたまたま同席しただけの相手で ....
結論から語ると、俺は今、死体を分解している。電灯の暖色を受けて朱く色づいたバスタブの上に、赤黒い血が流れ出る。通りの悪くなったナイフを、力任せに叩きつけると予想以上に大きな音がして、慌てて蛇口を捻る ....
スデに下地は出来上がっていたのだ。
国民は特定の信仰を持たず、国家に蔓延した宗教は凡そ全ての神を赦した。偶像を掲げる隣で天使祝詞を読み上げても、スパゲッティモンスターについて議論しながら東方へ頭 ....
頭と金が足りない女がいた
木星に住む男へ会いに
腹の子を隠して冷凍睡眠機にもぐりこむ
腹の子の名はフローズン
木星軌道で育った胎児
氷漬けの母の生き血を啜る
フローズ ....
室内灯は消えていた。幌の隙間から光が差し込むことも無い。エンジン音は聞こえず、静かに、波の音が聞こえる。水面を切り裂く音ではない。船を揺らすリズムに沿った、自然の音だ。横、正面に座る同僚達はまだ眠っ ....
限界なのだ。という声が聞こえた。
見ると綿雲がぶるぶると震えていた。
空が震えているわけではない。空を支えるものが震えているのだ。
いよいよその時が来たのだ。
私は日々の糧を得るため ....
ガンジス川を夢見ていた。
あなたが見たことのない、異邦の川だ。
とろけたチャイのような色合いで、流れはゆるやかに、向こう岸というより彼岸、と呼びたくなるほどに川幅は広い。川岸では野焼きで死体 ....
眠れない夜が明け
笑えない朝が始り
下らない昼が過ぎ
眠れない夜が来る
路傍の石を撫でる市民が月を指差して
あぁもまるいと下らないと哂い
居場所をなくしたように感じる
....
雪がきれいですね
と私は言いました
雪がきれいですね
と私は言いました
十時に消える街灯の九時の光に照らされて
雪がきれいですねと私は言いました
きっと揺れて落ちる雪 ....
家に帰ってまで電気の光を浴びるのは嫌いだ。夜は夜らしく、暗くあるべきだと考えている。部屋の隅の卓上電灯のタッチパネルを一押し、書き物程度の光が、机の上から漏れ出しあたりに飛び散る。部屋の真ん中にある ....
胴体のまんなか、繰りぬかれた胸にはジェンガが積んである。人間とはそういう風に出来ている。例え服を着ていようと、裸体であろうと僕の視界では四角く切り取られた空間に、ゲーム途中のジェンガが屹立しているの ....
その時僕は岩のようなチーズを削っていた。
背の低い空き箱に腰掛けて、股の間には薪火で炙る大鍋。
削り節のチーズはみじめったらしく焼け焦げた鉄の上に落ちて、どろどろと溶ける。
俺はどうやら ....
紙製梱包材を開封すると、下読みが蹲っていた。両膝で頬を挟むように体育座りして、脚の爪の長さを測っている。体毛は全て剃ってあり、陽の光に当たり慣れていないのか肌は薄紅色。年の頃は二十後半だろう。同じ大 ....
すっかりぬるくなった湯に体を沈めながら、浴槽の堅さに身を寄せる。眠るのは嫌いだ。夢を見るだとか、人生の無駄だとか、そんなくだらない理由じゃない。そもそも感情に理由を求めるヤツは総じてクソだ。まるで脳 ....
通勤路に、猫家族がいるのを発見する。白と黒のまだら模様を浮かべた親猫のそばに、ちょろちょろと子猫が数匹走っていた。僕は路地裏を自転車で走るのが好きなので、猫の寝床もまた、路地裏に面している。門扉を備 ....
道中出会った黒人の少年は痩せぽっちのチビだった。
手足がやけに細く、その癖黒人特有の光沢と張りのある肌。縮れた髪の毛に薄い唇。衣服は支援キャンプで配布されている、年齢に不釣合いな大人用のものをず ....
きそくがある。じぶんのげんこうをひとつもってはいれ。ただし、くうはくやくとうてん、だくてんはんだくてん、すてがなひらがな、ろくじゅうさんしゅるいのもじだけをつかい、すべてをいちじとかんさんしてせんじ ....
規則が、ある。自分の原稿を一つ持って入れ。ただし、原稿には空白や句読点、濁点半濁点、、捨て仮名、ひらがな、全てを一字と換算して千字ぴったりの原稿。漢字やカタカナ、異国の文字は不許可とする。
....
長旅は遂に終わる
故郷は思い出せぬほどに遠く
削れた左足は針のように細く
垂れた垢汗血涙は大地を穿つ
両の腕は脚代わりに杖を突く
三本足の旅人は声を聞く
父は遠くから来た ....
幼い頃、私は炭火に憧れていた。
休日、父に連れられて入った山野。街灯一本無い川辺で、良く炭火を囲んだ。
米軍のハライサゲだと父が言う。大人でも一抱えほどある、鉄製の缶の中に紙袋の口をあけ ....
原風景を1つ答えよ、と問われたならば
小生にとってのそれは牛舎である。
小生が幼少を過ごした田舎は、そりゃもう絵に描いたような香川のド田舎で。
ため池があり、畑があり、どぶ川が ....
びおうびおうと風が吹いた。不純物が混ざると雑音も増すのだろう。雪混じりの風は音を強く感じる。雪国というと詩的情緒な感覚だが、実際は酷く暴力的だ。
何せ、窓の外は三歩と進めば迷ってしまうほど視界が ....
罪状を忘れてしまったが私は禁固6720時間の刑期を勤めていた。生暖かくぬるぬるとした液槽に浸り、なるべく身を小さく丸めている。不思議なことにはじめ広々としていたこの部屋が、時間が経つに連れだんだんと ....
私は彼に対して、醜いナァと思う以上、特になァも考えなかった。だって彼ときたらぶよぶよしてて、生気の淀んだ肌と、まだらに伸びた無精ひげが全身に広がっていて、それでいて牛みたいな体に中年親父の顔してたん ....
鼓膜から吸収されるドラッグに形は無い
振動による物理作用が精神をROCKするからだ
パッケージングされた{ルビ美術=アート}のみが許される社会
クラシックの{ルビ焼き直し=カバーアル ....
世界は崩壊してしまったよ。馬鹿馬鹿しい連中はまだ信じちゃいないんだけどね。外の連中は腐った街にこびりついて生きて、中の連中はこんな所に引きこもって、それでまだ「大丈夫」なんて口にしているんだから救い ....
それは痛みを通り越して冗談に近い。
すべてを搾り取るように緩やかに行われ、劇的な効果を発揮する。
生きているわけでもなく死ぬわけでもなく、過ごす時間は永遠のようだ。
十年前の日本 ....
ポリバケツの底、カプセルを拾い上げる。これで最後だ。そろそろこういった仕事は部下に任せるべきなのかもしれないが、ここ最近、まともに動ける人間は少なくなっている。国家が滅びるとき、生き残るのはマフィア ....
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