ノート(ふたつの指)/木立 悟
ひとりひとりを抱いて放して
そしてひとりも戻ってはこない
雨のなかの羽
ぬくもりとまぶしさ
ひたいの上の
羽の柱をまわしながら
空に立つ不確かで巨きな
ひとつの羽を見つめている
旧いひびきをすぎてゆくもの
水のかたちをひたはしり
いなびかりのなか忙しなく受粉し
あるいは滅び砕けながら
とどろきに咲く花を摘むもの
曇を曇にし
冬を冬にする粉の手が
冷たく指をひらくとき
手は水を含んだ手に変わり
みずからをただみずからを
滴のように触れてゆく
ふるえる手首を空に埋め
頬ずりのように洗うとき
指は一度石になり
そして
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