ノート(水応輝)/木立 悟
 



夜の輪郭が瑞々しく
他の夜の暗さから起き上がるとき
波を湛えた器を抱え
灯りの無い道を進みゆくとき
声は牙の冠のように
おごそかに髪に降りてくる


ふたたびからになる器を満たし
夜のもうひとつの名を呼び放つとき
走りつづける自らの影が
巨大な蟷螂に立ち上がるとき
波の音は重く途絶え
満ちた器をからにしてゆく


こぼしたくないこぼしたくない
ひとしずくひとしずくの重なりが
手のひらに刺さり 消えてゆく
風は強くなりまた強くなり
壁と土のさかいめの蒼
壁を昇り 空を昇り
さらに空の高みへ昇る


雨は来て雨は去る
土はゆるく緑を映す
波とともに音は還り
抱えられた器を揺らす
髪とうなじをなぞる銀
朝へ向かう夜のなかで
冠はしずくのようにささやいている










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