06/01 15:44
佐々宝砂
今日は仕事がお休みで、家事をやらなくちゃならないのだけど、なんだか全然やる気にならない。ということはさておいて。
先日、青年座の「赤シャツ」を観た。マキノノゾミの脚本。赤シャツは漱石の『坊ちゃん』にでてくるいやーなやつの赤シャツなんだが、こいつが主人公。赤シャツを演じたのは横堀悦夫で、頭にたっぷりこんとポマードかけて撫でつけていたらしく、わりと前の席で観ていた私のところまで匂ってきた。芝居はとてもよかった。芝居を観て一度も泣いたことがない私なのだけれど、最後のシーンでどうしても我慢できず泣いてしまった。
漱石の『坊ちゃん』を元にしてるし、人物造形も物語もほとんど『坊ちゃん』と同じなのだけれど、解釈が違う。一度も舞台には登場せずナレーション担当の坊ちゃんは破天荒なところのある近代人。山嵐はまっすぐな気性の侍魂でやっぱり近代人。野だいこは、つまらない太鼓持ち、こんな人は昔からいただろうし、今もいるのだろうと思う。マドンナは、どこにでもいそうな悪賢い女だ。うらなりは気が小さくやさしくとても弱い人で、わりかし現代的で、私の横にもうらなりのようなひとは、いると思う。そんな登場人物の中で、赤シャツはきわめて常識的な現代人で、鋭い洞察を持つわりに、他人が想像するほどには世間をうまく泳ぐことができず、最後には坊っちゃんと山嵐にぼかぼか殴られたあとのぼろぼろな姿で登場する。その姿で赤シャツは言う、やがて五十年後には、百年後には、坊っちゃんや山嵐のようなやつはいなくなり、俺や野だいこのようなやつばかりになるのだろう、と。そして叫ぶ、「そんな世の中、俺はごめんだ! まっぴらだ!」
そこで私は泣いちまった。かなりみっともなくべそべそ泣いたので、カーテンコールのあと友人に挨拶もせずそそくさと帰り、いきつけのスナックで焼酎を飲んだ。朝三時までそのスナックにいて、気が付いたら朝七時でどこかの知らないじーさんと知らない店で飲んでいた。始発の電車で帰った。夫(いまどき珍しい坊っちゃんタイプ)が、バカヤロウ朝まで飲むならせめてメールくらいしろと怒鳴った。謝って、寝た。