秋の暦
岡部淳太郎

カレンダーを一枚めくる度に
当たり前に季節は深くなってゆく
ビルとビルの谷間の廃屋にひとり住む老婆は
知らぬうちに彼方からの者を迎え入れる
表通りでは今日も賑やかな工事が進み
誰も気づかぬうちに幹線のガードレールの上に
落ち葉が一枚そっと舞い降りる

本の頁をめくるように
心の中の日めくりをめくる
一枚ずつめくる度に
終ってしまった一日を奥底まで落とす
心の中にも重力があるのだ
力なく落ちた一日は赤く色づいた葉となって
静かな永遠を過ごす

年老いるということはこのようにして
自らの中が落とされた葉で埋まってゆくということなのか
めくって落としてしまった一日は
後になってそれが大切な日だったのだと思い直しても
葉の堆積の中から探し出すことは難しくなっている
心の中では太陽の動きとは無関係に
独自の暦が働いているのだが

誰もがたった一枚の
乾いた落ち葉となりうるのだ
いまだ訪れない老年の時をぼんやりと思い描いて
冷たくなってゆく風の中で
心の襞を一枚ずつそっとめくってゆく




自由詩 秋の暦 Copyright 岡部淳太郎 2006-09-16 22:45:38
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