秋の暦
岡部淳太郎
カレンダーを一枚めくる度に
当たり前に季節は深くなってゆく
ビルとビルの谷間の廃屋にひとり住む老婆は
知らぬうちに彼方からの者を迎え入れる
表通りでは今日も賑やかな工事が進み
誰も気づかぬうちに幹線のガードレールの上に
落ち葉が一枚そっと舞い降りる
本の頁をめくるように
心の中の日めくりをめくる
一枚ずつめくる度に
終ってしまった一日を奥底まで落とす
心の中にも重力があるのだ
力なく落ちた一日は赤く色づいた葉となって
静かな永遠を過ごす
年老いるということはこのようにして
自らの中が落とされた葉で埋まってゆくということなのか
めくって落としてしまった一日は
後になってそれが大切な日だったのだと思い直しても
葉の堆積の中から探し出すことは難しくなっている
心の中では太陽の動きとは無関係に
独自の暦が働いているのだが
誰もがたった一枚の
乾いた落ち葉となりうるのだ
いまだ訪れない老年の時をぼんやりと思い描いて
冷たくなってゆく風の中で
心の襞を一枚ずつそっとめくってゆく