「 りありぃ。 」
PULL.
痛みで目が覚めた。
耳が痛い。
耳の中が痛くて、
くしゃくしゃ音がする。
指を突っ込んで掻き出すと、
耳から蟻がこぼれ落ちた。
まだ音がする。
さらに掻き出すと、
ぼとぼとと止め処なく、
耳から蟻がこぼれ落ちる。
音は止まない。
何度も何度も掻き出す。
やがて蟻は畳の上に溜まり、
黒い塊になった。
蟻たちは何かを咥えている。
それは灰色の小さな欠片。
何の欠片かと頭を傾けると、
耳から灰色のそれが、
さらさらと流れ落ちた。
すぐさま塊が動き、
灰色の欠片に群がる。
二度三度と群がりは咀嚼する。
灰色の欠片は跡形もない。
群がりはもぞもぞと蠢き、
離合集散を繰り返しながら、
ひとつとひとつとひとつの塊になった。
ひとつの塊から細い線が伸びる。
ひとつとひとつの塊からも線が伸びる。
線はひとつとひとつとひとつ集まり、
ひとつに縒り合わされ、
ひとつの線となって外へと向かう。
ひとつの線を辿って、
裏庭に出た。
がらんとした庭には何もなく、
くしゃくしゃした穴が開いている。
線は続き、
灰色の欠片を咥えた蟻たちが、
くしゃくしゃした穴に、
消えてゆく。
近付いてみると、
くしゃくしゃした穴は、
大きな耳の穴だった。
それはどこか見覚えのある、
耳だった。
くしゃくしゃした耳からは、
くしゃくしゃした音がした。
ぐらり、
視界が揺れた。
足下には何万もの蟻がいた。
辺りは黒く波打っている。
波は耳の穴へと流れ、
わたしを運んで、
ゆく。
後は深い深い耳の奥で、
いつまでも蠢いていた。
了。
自由詩
「 りありぃ。 」
Copyright
PULL.
2006-08-29 18:39:50
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