「 鬼さんこちら。 」
PULL.







逃げるんだ逃げるんだ。
鬼が来るから逃げるんだ。
家も家族も生活も、みんな捨てて逃げるんだ。

梅雨の雨に涙を隠して、
梅雨の霧に身を隠して、
蜜夜の闇に君は守られた。逃げろ逃げろ逃げろ。

鬼が来た鬼が来た。鬼が来た。
ふとっちょ鬼がやって来た。
棍棒持って、赤い顔してやって来た。

あっかんべぇして、怒らせて。
べろべろばぁーで、怒らせる。
ほらほら、さらに真っ赤なお顔になっちゃった。

ふとっちょ鬼さん。こちらにおいで。
ふとっちょ鬼さん。こちらへおいで。

おやおや、どうしました?。
ふとっちょ鬼さんらしくもないですね。
いつもやっているように、してご覧なさい。
いつも彼女にやっているように、してご覧なさい。

ふとっちょ鬼さん。こちらにおいで。
ふとっちょ鬼さん。こちらへおいで。

その棍棒振り上げて、
鬼さんこちらにやって来い!。


君のしゃぼん玉は割れたけど、
君の涙はまだ涸れないけれど、
君は逃げられるんだ。

勇気もいらない。
決心もいらない。
必要なのはただひとつ。
執念持って、飛び込んでおいで。

ほら。

鬼が来る鬼が来る。また鬼が来る。
ふとっちょ鬼がやって来る。
包丁持って、ふとっちょ鬼がやって来る。

逃げろ逃げろ逃げろ。

髪を切って、化粧を変えて、擬態して、
鬼の知らない姿になって、
鬼の知らない場所に、
誰も知らない場所に、さあ逃げろ!逃げろ!逃げろ!。

逃げてしまえ!。


鬼さんこちら、手の鳴る方へ。
鬼さんこちら、手の鳴る方へ。
鬼さんこちら、手の鳴る方へ。
鬼さんこちら、手の鳴る方へ。












自由詩 「 鬼さんこちら。 」 Copyright PULL. 2005-07-13 10:25:39
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