にわくらべ
そらの珊瑚

ゆるゆるとながれている
今もながれつづけている時間を
ふいにとめた とある春の庭がふたつ
となりあっている
ひとつは住人によってよく手入れされていて
赤いチューリップが笑い
黄色のパンジーが風をさそっている
もうひとつは住人を失くしたために
かつて美しく咲いてみせた白いツルバラは消え
草むらがうっそうとしている
枯れてもしぶとく立ち続ける茶色の一群と
いきおいのある若い緑の一群はなかよく同居している
 失くすことによって、ちがうなにかを得たように
その家のカーテンは長いあいだ閉じられたまま
ユキもいなくなった
ユキというなまえがぴったりな真っ白な柴犬
初めてフェンス越しに対面したわたしに
吠えもせずしっぽをふってくれた愛らしい犬
番犬向きではなかっただろうけど

かなしいこととうれしいことは
よみがえってはきえていき
またよみがえり
いつのまにやらまぜあわさって
時間のふちで立ち止まった日傘が作る
わたしのちいさなひかげを
さざめきあいながら
とおりぬけていく

くさぼうぼうもわるくないな

人のおもう美しさのタガははずれて
ただそこでさっぱりと生きているだけ


自由詩 にわくらべ Copyright そらの珊瑚 2024-04-29 11:57:04
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