甘噛みのひと
恋月 ぴの
その橋の欄干から身を乗り出せば
清らかな流れの中ほどに石ころだらけの中洲
別段、川の流れに抗う姿勢をみせるでもなく
上流に夕立でもあればあっさりと荒くなった流れに呑まれ
ちょうど今ごろの季節なら週末ともなると
バーベキューの歓声が辺りを支配し
総ては川の流れが清めてくれるものと決め付けている
※
生きるとはなんだろう
あえてそんな問いに悩まずとも
ひとは生きる
生きてしまえるもの
川の流れをよく見やれば
ウミウの襲来などものともせずにひらを打つハヤの群れ
ひとかたまりと川面に揺れる
※
むやみやたらと子が欲しくなる
生を繋ごうとする本能の恐ろしさよ
抜いてはならぬとばかり、おとこの腰に絡めた己の執念深さ
それほどまでして産んだ我が子の行く末など
恐ろしくもあり
そして哀しくもあり
※
アキアカネの飛翔でも見かけられるなら
多少なりとも救われるものを
日差しの酷薄さは密やかな願いさえも無に帰してしまうようで
誰が打ち捨てたのか、ひしゃげた日傘は熱風に舞う