廃園
未有花
朽ち果てた誰も訪れる者もいない廃園
寂れた石畳の道をひとり歩く
色褪せた花壇には花一輪すら咲いてはおらず
春を謳歌していた面影はどこにもなかった
かつてこの花園で一輪の花を摘んだことがあった
それはまだ若く美しい少年であった
その頬はうっすらと薔薇色に染まり
吸い込まれるような深い瞳は青スミレ
そして私を誘惑して止まない唇は桜草のようだった
あの日の燃えるような
接吻
(
くちづけ
)
を私は忘れることができない
すがるような瞳で私をみつめていた
少女のような唇の美しい少年
一生に一度の恋であった
今でも消えることのない胸の奥の痛み
あれからあの少年とは二度と会うことはなかった
若い日のただ一度の恋は
今では遠い思い出となって私の胸に息づいている
あの頃の情熱はもうとうに枯れてしまったが
この身が朽ち果てたとしても忘れることはないだろう
あの燃えるような薔薇の花の下での
接吻
(
くちづけ
)
だけは
この花園に眠る愛しい思い出よ
このまま私の胸の奥に深く深く埋めてしまおう
思い出はいつまでも美しいままのほうがいい
これから歩いて行くひとりきりの道に
ただ輝く宝石のように永遠に眠っているがいい
いつかまた出会えることを夢見ながら
いつかまた花咲けることを祈りながら
Adieu,mon amour
安らかに眠れ
そしてまた私も潔く朽ちて行こう
この寂しい廃園のように
自由詩
廃園
Copyright
未有花
2010-03-03 09:06:21
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