迷宮組曲/第1楽章/夜明け
遊佐


 *
抽象をなぞる指先が、無色透明な肌に存在だけを記して
昨日の空に溶けて行く、輪廻を正しく辿って行けば
全ての人の記憶は一つになると
ついさっき、知りました。
だから、君の香りはどこか懐かしいのだと

 *
夜の闇の中に、
銀河を渡り損ねた星達が、規則正しく連なり消えて行くのは
艶やかに流れる者を見送る為なのではないかと、貴方を見て
ふと、そう思う今日この頃に
愚かな自分の生き方の中にも拾うべき物は在るのだと、
嬉しくもあり
虚しくもあり
泣き笑いしています。

 *
夜を啄む嘴の尖端には朱に染まった満月が僅かに顔を覗かせていたってことも
名も無い小さな星の陰で密やかに呼吸していた者も居たと
僕らは憶えて置こう
分かち合うことの意義も、控え目であることの美しさも
全ては一つの空から生まれるのでしょう

 *
明けの空には
昨日の罪を抱いて去り行く月と星達の淡い残照と発色が入交、壮大なオペラを奏でる
あらゆる負を照らす暁光は包み隠さず全てを曝し
善きも悪しきも刻み込むように暦の隅に焼き付けてしまう

真実は
どこか美しく映り、
事実は
切ない色に煌めく、
僕達は
その中間で生きている
信念は
いつも流動的であるのに対して
概念は決して形を変え


自由詩 迷宮組曲/第1楽章/夜明け Copyright 遊佐 2009-06-25 02:17:29
notebook Home 戻る