「 呪夏。 」
PULL.







 うなされていた。醒めると、冷たいはずの
手が、あたたかく汗ばんでいる。握りしめる
と、まだ感触が残っていた。呪いのことばを
呟いて、うなだれる。したたり落ちる汗が、
シーツにてんと、黒点を穿つ。
 裸のままで、外に出る。湿った風が、汗を
拭う。月が高い、声がする。野性の声がほろ
ほろと、呼んでいる。
 手を握りしめる。あの冷たい感触はもう、
どこにも残っていない。きみの手が、思い出
せない。
 呪っている。きみを呪っている。きみをい
つも呪っている。きみをいつまでも、呪って
いる。きみを呪っているのはきみに残された
からだ。だから呪っている。きみを呪って、
夏に生きている。
 この夏に生きている。呪っている。愛して
いる。いつまでもきみを呪って、愛している。












           了。



自由詩 「 呪夏。 」 Copyright PULL. 2007-08-24 17:03:57
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