円運動
黒子 恭

蛍光灯を一つだけつけた部屋にうずくまっていると
決まって、
片方の触角が無い油虫がわいてきて、
不規則に円運動を繰り返す。
 
俺も同じだ。
でもお前なんだか可哀想だから殺して良いか?
 
言っても油虫は円運動をやめない。
 
くるくるとして
くるくるとして
俺の眼球もお前の軌跡をなぞり始めて、
その内に頭もぐるぐるとし始めて、
また赤ちゃんになりたいと言い出して、
永劫回帰しようとする。
 
お前も同じだ。
円運動を繰り返す。
円運動を繰り返す。
 
「ばぶぅ」とさえずりだして、
ウォーターベッドで揺られながら羊水を再度味わった気分になって、
回帰し過ぎて吐いている。
 
 
気付くとあの油虫は円運動を止めていて
ぐったりして死んでしまった。
朝だった。
 
そこに俺しかいなかったから
俺はまたおとなに戻って
何気なくスーツを着こなす。
何気なく一日が始まってゆく。
 
円運動を繰り返す。


自由詩 円運動 Copyright 黒子 恭 2007-06-04 02:53:12
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