円運動
黒子 恭
蛍光灯を一つだけつけた部屋にうずくまっていると
決まって、
片方の触角が無い油虫がわいてきて、
不規則に円運動を繰り返す。
俺も同じだ。
でもお前なんだか可哀想だから殺して良いか?
言っても油虫は円運動をやめない。
くるくるとして
くるくるとして
俺の眼球もお前の軌跡をなぞり始めて、
その内に頭もぐるぐるとし始めて、
また赤ちゃんになりたいと言い出して、
永劫回帰しようとする。
お前も同じだ。
円運動を繰り返す。
円運動を繰り返す。
「ばぶぅ」とさえずりだして、
ウォーターベッドで揺られながら羊水を再度味わった気分になって、
回帰し過ぎて吐いている。
気付くとあの油虫は円運動を止めていて
ぐったりして死んでしまった。
朝だった。
そこに俺しかいなかったから
俺はまたおとなに戻って
何気なくスーツを着こなす。
何気なく一日が始まってゆく。
円運動を繰り返す。