変な 顔の子だった
くしゃみをした犬の子の様だと人が笑った
その子が 二十歳をすぎて
段々と美しくなって来た
笑う時、口許に愛嬌がある
と人が言った
いや 目もとが ....
雨あがりの夕まぐれ
駅前通りの小路で見かけた
たどたどしい足どりの小さな長靴
ランドセルは背負っていないけれど
スクールスカートを履いて
片手に持つ二つ折りの画用紙
....
いつからか
私のまわりを古びた影が踊るようになった
冷たい唇を
心臓にぴったりとはりつけて
やがて
血汐をすいとってしまうのではないか
だが
....
その視線はどこを見るでもなく
誰を みるでもなく
そして何に
留まるでもない
体になじむポロシャツと
洗いざらしな作業ズボン姿のおじさん
きっとシルバー人材センターか ....
風の中に雨がむせび
雨の中に女がむせぶ
長く長く
細く細く
胸の中に
容赦なく風が吹きこむ度
血潮のいとおしさに女はむせぶ
過ぐる日 ....
地元走るローカル線を無人駅で降り
山裾へのぼる細い道で足を止めた
通りすがりの一軒家
茂る枝葉を被った鉄の門
奥に木造の二階建て
軒下には蜘蛛の巣が灰色の層になっている
....
地元走るローカル線を
無人駅で降り
山裾へのぼる細い道で足を止める
通りすがりの一軒家
枝葉被った鉄の門
奥には木造の二階建て
厚地なカーテンひかれたままの窓
....
ある人を喜ばせる役目を終えて
そのメルヒェンを忘れ果て
路上に居る様には見えなかった
マスコットキャラクターの小熊
目的のある足は目も触れず通り過ぎて行く歩道で
しゃがみ込ん ....
既に色褪せて重たく落ちている花片を
踏みながら歩む林の中は
もう黄昏ている
椿林の木立
わずかな隙間から
聞こえる波濤のどよめき
腰をおろしてみなさい
....
「うまそうやなぁ!」
いきなり頭上から降ってきた補佐の声
昼休憩時
開いたわたしのお弁当
ほうれん草の胡麻和え
切り干し大根の煮物に出し昆布の千切りまで入り
かぼちゃの含 ....
その日は夕方までに出張先を二箇所回る予定だった
庁舎の駐車場を出発した公用車のバン
走る 湖岸道路から
雪化粧した比叡の山陵が見えて
ハンドル握る主幹へ助手席の私はたずねる ....
赤茶けた りんごの芯を
みつめていたら
なにもかもが
こわれかけた 白さに
その薄さよ
わたしは
あなたの胸を離れなければならな ....
「朝顔を咲かせてきたの。」
始業時間のチャイム鳴る前、
いつもより遅れて出勤した私は
理由尋ねる彼女へ答えた
君よ 開け
線路わきの道沿いで
私の手が一輪の花へ伸びた
....
日本海に春の来た時は
静かに 静かに
目をとじてみると
生命ない小石が激しい息吹をもらす
波 寄せる毎
丸くなり
カラカラ カラカラ と
妙に乾いた音たてて
踊り ....
日本海に春の来た時は
カラカラ カラカラ と
生命ない小石が激しい息吹をもらす
波 寄せる毎
丸くなり
妙に乾いた音たてて
踊り上がりながら 転げこむ
海の碧に惹 ....
ジャンジャン横丁を
制服姿の女子の二人乗りが突っ切って行ったのは
もう十数年も前になる
後部に座る子の脚が長いのか
見送ると大胆に
自転車の幅からすんなり伸びる白が左右 ....
JRの車輌、
扉の傍に立った私の向かい側にいて
身を寄せ合う二人の男性
つい見惚れてしまう私の目には
まるで月のもと
ただ蒼白く静まりたる世界で
澄んだ瞳に引きし ....
庁舎の旧館は通風が悪い
配席の奥まっている課長のデスクまで
冷気は届かないから
窓を 通常開けておきます
出張先からまだ還らない課長に
明日午後の会議の資料を机上へ置きに来た ....
朝のスープの
セロリの香り
悲しかった様な気がする昨夜の夢を
おぼえていない 朝の靄
一匙ごと かるくスプーンを動かしていると
一口ごと すくいとられて胸の中へ流れこむ
....
六月はもう
むし暑く
医療用コルセットを巻くと
腹部が汗でむれる
窓の外を見ても
空はどんよりと深い水の色
濃すぎる緑に
むせ返りながら
ものうく
大気は ....
いく本かの 樹が
チロチロ陽を洩らす太い枝に一羽きて
また二羽が来る
小さな頭を左右に振って
最初にきた小鳥が身を投げ出すように低空飛行
今し方 私達が登って来た細道へ向かう
....
ある晴れた日に一軒家の庭で
赤い五枚の花片をしっかり開く大きな花を
母と見たのは昔の話
花の名前が思い出せずに 覚えた小さな胸さわぎ
茎が真っ直ぐに伸びた葵科の花
「この花は ....
仮設足場組立工事が始まると
いつの間にか ダークグレーな防音シートは
しのつく雨に暗く、まるで
封建制度の時代にたてられた牢獄の様に
そびえていた
からだのモヨウが ....
会社の敷地内にある貯水池に
六月の雨が
ひたすらに降る
ヨシが競いあって緑茂らせ
水中は水草の藻やアオコで光も遮断された
濁った水面に 呑みこまれていく雨の音
空もな ....
熱帯植物のあでやかな緑生い茂る中に
消えていった友人の後ろ姿
呼吸の度 緑の香が私の心染めてゆく
樹々の名前など知らない
私の身体中が
心中が
熱帯樹のしめり ....
水面を埋める
蓮の葉が
大きな葉っぱばかりでなく
伸びた茎の先々で
小さな葉も立ちあがり
陽を透いて
静かになびいている
まるで{ルビ摩周湖=カムイトー}の様な水辺に ....
花の時がすんで
雨の時が来
山の青く美しい時がすんで
薄墨にけむる時が来
それでも あなたがそばにいてくれると
私の心は
ブラインドカーテンから差し込む朝の光に
床を ....
輝いた肌を白シャツで包み
黒い目を持ち
広い肩を持ち
その人は今日
目の下や口の周りに軽い擦過傷があり
絆創膏を貼っていました
柔道部に所属していて黒帯なのは知っていまし ....
僕の隣に立つ女は長身でショートカット
切れ長の吊り目が奥二重
パーマのかかった短いまつ毛
手に布製のブックカバーを持っている
ああ、どうして彼女は
こんな下地の色に淡雪の様な ....
日の傾いたまち角で
ふと立ち止まってながめ見る
昼顔
香り無く素っ気ない素振りに見えた薄ピンクの
一日花
そのアナタが一瞬だけ、わたしへ
ふるふるっ と 照れくさそ ....
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