又 戻って来た
物憂い瞳で 上手く口説き
心をさらいに来る悪魔
親しげに抱きしめてくる腕
あたしがいつも
浮き草の様に揺れ動いているのを
充分に知っている男
取り ....
暗いバーで
黒い服がよく似合った女が
しわがれた声で私の名をきいた
煙草とウイスキーの琥珀によどんだ目で
笑いもせず何故
私を 見つめるのか
フロアから這い上がっ ....
十九時半は回っていただろう
仕事帰りでもなさそうな洒落たポロシャツの中年男が
客のまばらなカウンター席で飲んでいた
そこは、いつもなら私の指定席だったのに
仕方なく隣で
梅 ....
遠イ遠イ雪ノ山
降リル事ナゾ思ハズニ
タッタひとりデ ノボルノデス ト
誰モ ダーレモ
女ガひとりノボッテイルコトナゾ
知ラナイノデス ト
止ンデイタ雪ガマタ
サ ....
だれも居ない大学の構内に
緑だけが 大空を指しておいしげる
私はそれを見るのが好きだった
雑踏の中に居る時には
親しく心に顔をみせるのに
一人になって 悲しい思いの時
....
あなたの胸は広い
悲しさと 悩みにひしがれていても
あなたの顔をみると
何も言わない内にふと軽くなるのだ
わたしの心は小さい
豊かに 楽しい時でも
あなたの顔に ....
降る雨の音の彼方
何か物憂いささやきがある
降る雨の
或る古い影が
街頭へ彷徨い出て
騒音の中で狂い始めた
一心に 鎮めようと
声をかけたが
空を跳ね ....
その影は
駐輪場で談笑しているオバチャンを
横目で捉え
建設中のマンションの傍を行き
細道抜けて
一軒の 美容院へ向かいます
二時間後
チリリン!
ガラス扉が開 ....
お湯を沸かしながら
まだ眠い気だるさには
モカブレンドのドリップコーヒー
昨夕スーパーの陳列棚に一袋だけ
お買い得商品のプライスで残っていた
この一杯の 目覚めが心地良い
....
地に 夏が吸い込まれた
そこを裸足で 歩いたから
ピリピリと
心臓が
感電でもした様に痛む
熱気の中で せい一杯
裸足は大地に反撥を試みる
そして大樹の繁 ....
詰まらない
タワ言を 一人並べて行くだけでも
やはり詩だと
思うようになった。
ノンフィクションの世界
硝子で仕切った空間に
一鉢のサ ....
髪を上げてみよう
唇に紅をひき
新しい上衣を着て
お茶を飲みにゆこう
ポケットには何も
入っていないから
冷たい掌つっこんで
香り高い紅茶を飲みにゆこう
....
最期を迎えるならば
例えば
深い深い夜
病室のベッドに居て
国道一号線走る運送屋の
大型トラックの音に
ただ耳を傾ける事の出来る
そんな自分でありたいのかもしれない
....
すぼんだ花が
いやにいとしくて
捨てられずに
眺めていた
去年の春 と題して
絵をかいた
いやな女ね あたしって
煙草がいたずらに灰になるのを見ていた
....
蝉の声に讃えられている
誇らしげな 夏
そして 私の傍ら走り去る
一陣の風
人通りない交差点
銀輪またがる その人の姿を目にした途端
足が止まる
肌に まとわりつ ....
ある女が 酒房に惹かれ
やかましいその片隅に
毎夜坐っていた
沈んだ目が時折光る時
女はカリカリと氷をかみ砕き
強い酒に挑んでいる様に見えた
何日かすぎた頃
....
あれが あなたでしたか?
傘をささずに濡れた舗道を歩いていた
男の人
何処か 空中を見詰めている様で
視線をたどってみたのですが
何もなかったので
変な 人だ ....
神への歌を忘れ果てた犬が
夜を彷徨う
細い脚が痩せこけた腹を支えて
乾いた目をまっすぐ下に向けて
舗道を行く
俺のねぐら
俺のねぐらは何処か?
彼は思う
....
半月のゆらめき昇る時
哀れにも
恋の嘆きのリフレーン
がらんどうの
もはや、夢をつくり得ぬ
心
何もかもが
その中で共鳴するから
全てが 一様に化合さ ....
祇園の石段の上から
灯の街を眺めさせたいと
私の腕をむりやりつかんで
つれて来た あなた
遠い異国の昔
王宮の血汐がはねあがった日
革命の巴里祭
そして日本では祇園祭 ....
アタシって
このマンションロビーのガラス張りな壁の隅で
時たま 糸垂らしてるわ
アタシが植え込みの陰で寝てる間に今日
プレイロットに大きな笹飾りが持ち込まれていてね
夕飯時さ ....
会社の大会議場のお客様控室に
ちょっとアンティークなドレッサーがある
清掃に入ると鏡を拭くついでに
ヘアスタイルを確認したりしてしまう
くもりない三面鏡が私を映す
一面に ....
午前七時三十七分発の電車に乗りたくて
はや足で のぼる小路
それでも
目の端がとらえてしまう 小さきモノ達よ
短くなったタバコの吸い殻
路面にひろげられたまま貼りつく ....
小さなグラスにウイスキーをなめなめ
夜更けて
行くのを知る
そういえば私の影は何処へいったでしょう。
「探しにでもいったのでしょう。」
あら、何 ....
かつて
わたしの掌に
高々と燃えていた火柱
それは
赤く 高く 太く 激しく
掌で支え切れない程だった
わたしの顔も 肩も 胸も
焔に染まって輝 ....
うごく小さなゴミの塊
しゃがみ込んで足もとのキミを摘み上げる
「モップスリッパみたいじゃないか!」
と
カナブンくんに挨拶する
どこを
どうあるいたら
こんな ....
にぎわう児童公園に
一人やって来た その子
砂場の隅っこにしゃがむと山を
つくりはじめる
子連れの大人は
見知らぬ子だから声を掛けてみるが
自分のつくり始めた山に夢中な ....
暗闇の中には沢山の物語がある
パリの老いた靴作りが
ハンチングを傾けてかぶっているのは
むかし街の女に
とても粋だわ と口笛を吹かれたからという話
それでそ ....
路の端
行きすぎるヒトの脚許
恐れもせず
ヨチヨチ
細い舗道で歩調ゆるめるヒトたちの視線
浴びる君はなんとか
横断すると
また 喫茶店のガラス扉の前
軒下う ....
給料日 仕事上がりに立ち寄るATM
その銀行の隣に花屋がある
軒先、白い看板には飾り文字で「花音」
店内は細長いスペースで奥行きあり
入り口に色とりどりの花の苗が陳列していた
....
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