ノート(原のなかの家)/木立 悟
燃える草の原のむこうで
夜は息をしつづけていた
生まれる前のものが羽に包まれ
夜とともに揺らいでいた
かがやきのない星が穴のように在り
風と煙と火の柱を
吸い尽くすように吸いつづけていた
壁と壁の間の塊が
血と水銀と曇に還り
夕暮れが消える方向へ
原のかたちを描いて流れた
光は水鳥の群れに照り返し
灯のない家へ降りそそいだ
岩から岩へ
うすい藍色の衣が散らばり
姿かたちのないものたちが
次々と身につけては去っていった
ひとりの声が岩陰に立ち
顔と喉を手で覆った
窓にはうたが隠されていて
鏡をむらさきにふちどった
鏡のなか
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