批評祭参加作品■〈日常〉へたどりつくための彷徨 ??坂井信夫『〈日常〉へ』について/岡部淳太郎
 

デニーズを満席にしている。だれもが犀でい
ることを疑いさえしない。それはたんに慣れ
てしまったからなのか。かつて犀となった者
は白い眼でみられていたが、いまではだれも
異様とは思わない。むしろ人間のほうが歩道
のはしっこを遠慮がちに歩いている。だが、
いまはこんな風景さえみられなくなった。も
はや車道を渡ってくるのは、ぜんぶ犀だ。い
や、もう車さえ走っていない。ふいに、ぼく
の眼のまえで一頭が駆けだすと、つられて数
頭がつづいた。もう長いこと舗装されていな
いアスファルトの車道には、ぶ厚い砂ぼこり
が積もっている。かれらは蹄を蹴たてて走り
まわった。風が――いや絶望
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   グループ"第3回批評祭参加作品"
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