批評祭参加作品■〈日常〉へたどりつくための彷徨 ??坂井信夫『〈日常〉へ』について/岡部淳太郎
絶望が、もうもうと
舞いあがった。みわたすかぎり犀しかいない
光景が現れた。その群れは看板をゆりおとし
広告柱をなぎ倒し、砂塵をまきあげながら道
路いっぱいにひろがった。角をふりたて厚い
胴体の皮をふるわせ、奇妙な叫びごえをあげ
ながら渦をまいた。そのとき忽然とすがたを
現した釘男は、穴のあいた両掌をたかくあげ
て犀たちを静めようとした。けれど狂ったよ
うに群れはかれめがけて襲いかかり、踏みく
だいた。ぼろきれのようになった釘男は、そ
れでもようやく立ちあがり、なにものかを阻
止しようとふたたび両腕をあげた。そうして
犀たちが去っていった後を、一歩ずつ踏みし
めるように
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