ニイニイゼミ (百蟲譜34)/佐々宝砂
 
玄関脇の柿の木の下
アブラゼミの抜け殻はきれいに光る
クマゼミの抜け殻もてかてか
ヒグラシの抜け殻ときたら繊細な芸術品

なのにニイニイゼミは
ニイニイゼミの抜け殻だけは
胞衣(えな)をかぶって生まれた赤んぼみたいに
生まれた根の国を忘れたくないみたいに

乾いた泥にまみれて
泥臭いままで
それでも

ニイニイゼミは殻を脱いだよ
懐かしの泥だからって
いつまでもかぶっちゃいられない



(未完詩集『百蟲譜』より)
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