作品が人を傷つける/渦巻二三五
 
れていたことで、私には
 「わたしの乳房は子を産み育ててきたが、無為の乳房は木蓮の花弁のように散るだけだ」
 と読みとれてしまったのです。
 その木蓮の歌は美しい歌でしたけれど、まるで自分の乳房をもぎとられたような気さえしました。たいへんなショックでした。
 私は自分のそうした気持ちを作者に伝えたい思いにかられましたが、それはしませんでした。作者があえてそのような二首を並べたのではないとわかりましたし、その人は、私がそれを言えば困惑しながら詫びてくれたでしょう。
 私はしばらくその場を読みに行かないことにしました。そして二首の歌を忘れようとしました。歌は忘れましたが、そのときの印象は強く
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