彼/キメラ
 

彼の父は白血病を患い若き死を迎えた
彼には父親の記憶があまりない

彼は
独りで遊ぶことが好きな少年だった
まだ誰も知らないであろう場所まで
自転車をこいでは
見つけ出す全ての新しさを好んだ

広い空き地
彼は一人とても冷たい風を受け
心だけが風を受け入れられぬまま佇んでいた
夕暮れ
空一面を彩るその荘厳に
彼は自分の足元が少しだけ立派になった気がした

夕闇に風がシャツを心地よく揺らす時刻
片隅に捨ててあるひとつの玩具を見つけた
それは電池式であり
繊細な赤や緑の糸が幾つも施されており
電池を入れると内部の電極を通した糸が光り
点滅を繰り返すといった
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