長谷川のこと/蒸発王
 
赤な鳥居の数を数えたり
ロマンチストな長谷川は
ハイネの詩を暗唱したりして
とつとつと時は流れた
手も繋げない時代だったが
心はもっと近くにある時代だった


やがて
長谷川は出兵することになった
折角金を出して大学に通わせてもらったのに
申し訳無い

住み込み先に謝りながら
レースのハンカチと
其れに包んだ
彼の人の写真を2枚
将来の約束を
左胸に入れ
ベトナムを這いずり回った



長谷川が
生きているのか死んでるのか
わからなくなった頃
福音が決まって
じんわりとした喜びにひたったが
福音の際には持ち物は全て燃やさないといけなかったた
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