ある少女の独白/杉菜 晃
の構内とはいっても
前後は吹き抜けになっていて
私はあまりの寒さにぶるぶるっと
身震いしてしまった
それが彼に伝わったらしく
初めて目を開いて私を見たの
傷ついてはいるけれど
深いところに優しさをたたえている目色だった
彼は私を認めると急に険しい顔になって
また目を瞑ってしまったの
誰か人が来ているとは気づいていたけど
まさか私みたいな若い女がひとりで聴いているとは
思わなかったのね
それからはもう自分の歌に酔うように歌いだしたの
私がそこにいる限り
彼を歌わせることになると思ったから
CDを一枚とって
貰ったばかりの見舞金のカバーをはがして
大きなお金が入っ
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