浴 室/「Y」
 
のようにそこにあったのだろう屋根や壁が消滅し、その代わりに、真っ黒な墨の残骸だけが残されたのだ。私はその映像に不快感を覚え、テレビを消した。そして、二杯目のウイスキーをグラスに注いだ。すぐに飲み干す。柔らかな熱の塊が、喉を伝って腹の奥へと降りていき、ゆっくりと拡がっていった。私は目を閉じた。
 静かだった。エアコンが暖かい風を送り出してくる音しか聞こえなかった。私は、私と琴美を包み込んでいる、このフロアの空気のことを思った。それは穏やかで親和に満ちたものだった。だが、何かの弾みであっという間に崩れ落ちてしまう脆いものでもあるのだ。私は思った。琴美はもうじき治るだろう。そうしたら、二人で子供をつく
[次のページ]
戻る   Point(3)