浴 室/「Y」
 
つくろう。そして、このフロアを満たしている穏やかな空気を、より強いものにしよう、と。
 私は立ち上がり、空のグラスをシンクに置いた。エアコンとキッチンの電灯を消す。洗面所で歯を磨いた後、琴美の寝室の扉をそっと開けた。電灯は消えていた。普段琴美が使っている、ヘア・トリートメントの香りが部屋に満ちている。海草のような香り。
「お帰り」
 薄明かりの中から琴美の声がした。
「起きてたのか」
「いま、ちょうど目が覚めたの。また寝るわ」
「餃子、買ってきたけど」
「ありがとう。あとで頂くわ」
「うん」
 今日の琴美の調子はそれほど悪くない。声の感じで分かる。
「俺も、もう眠るよ」
「ね
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