浴 室/「Y」
「ねえ、こっちにきて、一緒に寝てよ」
「ああ。良いみたいだな、調子」
「うん。ちょっと良い」
私はガウンを脱ぎ、琴美のベッドにもぐりこんだ。
その夜、私は夢を見た。暗闇の中、高層ビルと高層ビルに挟まれた狭い空間の中を、自分の体が物凄い速度で落下していく。そんな夢だった。
死の恐怖は無かった。夢を見ていることを自覚していたからだ。
ビルの狭間を落下していく私の目に映っていたのは、浴室で体を洗っている人の姿だった。
もうもうと湯気が立っている、萌黄色に輝く浴室。目をこらして眺めると、そこに立っているのは私自身であるということが分かった。私は目を見張った。裸身が一瞬のあいだ湯
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