浴 室/「Y」
だ湯気に霞み、次に琴美の躯が現れた。琴美は立ったまま俯いて、腿のあたりを洗っていた。シャワーの湯が琴美の全身に降り注ぎ、飛沫にオレンジ色の光が当たって、湯気の中でキラキラと輝いている。私は立ちつくし、その光景に見とれていた。暖かな湯気と萌黄色の光が私を包んでいた。私は幸福感を覚えていた。
浴室でシャワーを浴びる人影は、私になったり琴美になったりと、その姿をくるくると変えた。決して人影が二つになることは無く、いつまでたっても一つのままだった。
ビルの谷は深く、地面は闇の中に沈みこんでいた。私の体は闇の奥にむかって、速さを増しながら落下していった。
(了)
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