浴 室/「Y」
 
もないマンションだった。ただ、通り沿いに浴室の窓があって、その間取りが目を引いた。そして、明かりのともされた4階の浴室が、視界の中に飛び込んできたのだった。
 すりガラスごしに中の様子がぼんやりと伺える。裸の人影が動いるのが見えた。妙に生々しい光景だった。浴室の中は萌黄色の光に満たされていたが、すりガラスと、もうもうと立ち込める湯気のせいで、男なのか女なのかもわからない。湯気に包まれた人影は、スポンジのようなものを用いて上半身をこする動きを見せていた。すりガラスの内側には湯気が立ち込めていて、入浴剤の匂いが漂ってくるような錯覚を覚えた。
 その光景は不思議と私の心を落ち着かせた。奇妙なことに、
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