浴 室/「Y」
 
かな痛みと共に、眼球が眼窩の底に沈んだ。一分ほど瞼を閉じていると、気分がすこし楽になった。
 私が妻と共に住むマンションは、都内にある職場から車で一時間ほどの場所にあった。通勤手段は自家用車だ。道路は思いのほか空いていたので、ストレスを感じることなく車を走らせることができた。
 ハンドルを握りながら私が考えていたのは、妻のことだった。妻とは大学の同級生だった。私たちは共に所属している美術部で知り合いになり、大学を卒業してから二年後に結婚した。今、彼女――琴美は、精神を病んでいる。
 昨年十月に琴美の病が明らかになってから半年ほどのあいだ、私の取った行動は、ある種の熱を帯びていた。そしてその熱
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