健司の日常/MOJO
た。いまは指が思い通りに動かず、苛々して弾くのを止めてしまう。古本屋で仕入れた名作とされている本、例えばバルガス・リョサの「都会の犬ども」を開き、読んでみる。字を目で追うだけで内容が頭に入ってこない。数行で本を閉じてしまう。そういうことを繰り返すうちに、言いようのない脱力感に襲われる。それが即ち発作である。サンダルをつっかけて部屋の外に出てみる。最寄のバス停まで歩き、来たバスに乗ってみようと考える。バスが来る間、行き交う車を眺めている。ソリッドブルーのプジョー。シルバーメタリックのポルシェ。見慣れない昆虫のような小型車はトヨタの新型だろうか。そうこうしているうちにバスが来る。が、既に小さな旅行をす
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