青い声が聴こえる日 デッサン/前田ふむふむ
 
水平線の静けさが、閉じた眼の、白い波の上を横切り、死のふちにむかう汽船が、三たび、黒い容姿を消していった。つづいて流れる、三たび、止まる雪の声。溢れる涙は、音もなく浜辺を濡らして、薄っすらと、ひかりを映し始めた海は、艶やかな肌をあらわにして、点滴の河口に浮ぶ灯台を誘惑する。灯台は、真率な窓を開いて、ひかりの熱を蓄えてから、うなされている青い空に、身をまかせる。その空の深さの中に、寝汗の湿り気を、握り締める手が、ちからなく、沈黙した闇を抱いて、うな垂れている。


二、 某月某日 秋

青い空のカンパスが、ひたむきに、
秋の節目を染め急ぐ。
一面に青い暗闇をくばり、潤沢な絵筆を拒むのは
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