死体観=廃墟観についての考察/朽木 裕
 
城砦の写真。それは全頁モノクロォムでありながらものすごく雄弁に語りかけてきた。建築物と云うよりは実際の住居。それもとんでもない人数の人々が居を構えているそれは法の目をかいくぐって違法な増築を繰り返した文字通りの砦。高層のアパートは町ひとつ分くらいの広さだけ聳えたち、それぞれの棟、それぞれの階が改築で複雑に行き来する。中はさながら迷路で外観はさながら静かな狂気を内包した奇跡。

そんな巨大住居に住んでいた数百、数千、数万の人々が砦から姿を消していく。初めから廃墟然としていたそこに唯一生きている姿をさらけ出していた膨大な洗濯物もついには姿を消した。国の介入である。静かな狂気を内包した奇跡はこうして
[次のページ]
戻る   Point(6)