書かれた-叔母/音阿弥花三郎
 

三面鏡に映る無数のこどもの顔に
叔母の顔が無数に連なった。

公衆便所のタイルの溝の色がある。
帯止めの鼈甲の色がある。
あの 袖の中へ腕を隠す格好で
叔母は町中へ逃げて行った。

こどもは腹痛を起こした。
原因も分からず苦しみ続けた。
叔母はこどもを見下ろして
じっとりと汗を掻いていた。

叔母の呼ぶ声がした。
じっと子供は聞いている。
だんだん叫び声になって来た。
しかしこどもは動かなかった。
「叫んじゃいけない。囁け」
その声だけこどもには聞き覚えがなかった。

風上の叔母のうちにこどもは走った。
ようやく湿地帯が見えて来ると
その中に家々が点
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