たなか屋の角/佐野権太
 
大きなガラス扉
日焼けしたブラインド
貸店舗、の白い貼り紙
コンビニになりきれなかった
角の、たなか屋

殺風景な店先のコンクリートには
ただひとつ
小さな郵便ポストが生えたまま
舌足らずな、おばちゃんの
(いらっさい、まっせぇー
が聞こえる

たなか屋には
コンビニにはない生鮮品が並んでいて
ときには賞味期限切れだったりしたが
それはむしろ、スリルで
言えば、おばちゃんは海老のように丸まって
ちゃんと交換してくれた

世間話に花が咲いて
いっこうに進まないレジには閉口したが
精一杯、背伸びして
カウンターにしがみつく
幼い指先に
柔らかい微笑みを
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