たなか屋の角/佐野権太
 
みをくれた

 (たなか屋、またお休みだね

見あげる小さなおでこに
何ひとつ
答えてやれやしない


そういえば、子供の頃
五円玉とか十円玉を握り締めて通った
駄菓子屋があった
桜色の一円ゼリーや
赤いミシン目のついた鉄砲の紙火薬を
買ったのは覚えているが
店の名前はすっかり忘れてしまった


西日を浴びたポストの温もりを横目に
手を引いて
たなか屋の角を曲がる

その呼び方も
いつか塗り替えられてゆく
安全で、
便利で、
薄っぺらい名前に





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