落下する男/千月 話子
から羽交い絞めされた
若い男と目が合った
瞳から(助けてくれ)と懇願されても
死に行く男だ
許してくれと手を合わせ
ひらひらと手を振った
15階で はたと気付く男
ああ、手紙をボロ机の上に置き忘れた
こんなこんなこんな こんなことになるならば
懐に入れて持ち歩けば良かったのだ
「さようなら」と書いた手紙を
じたばたと悔いの残る男
相変わらず風に煽られ13階
閉じられた窓
鏡のように空映す窓 ふと見やれば
仰向けに落ちて行く男の背中
無数の人々が
空に生える実の根の如く
びっしりと 支えているのであった
時代の違う 人種の違う
人々の
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