落下する男/千月 話子
 
々の顔は なぜか
男の顔と同じであった 
「まだ まだ まだ」と
合唱する雑多な声ではあった が
力強く(生きたい!)と願う男であった
何百分の一の魂の欠けてはならぬ
男であった・・・。


空白と空白と空白の後
不可思議に現れた
それはそれは 美しい手
受け止められた男を
優しく包む大きな手であった
柔らかな指先をくすぐるように
ゆっくりと降りて行く
男の着地を助けたのは
釈迦の手か またもや不条理か


地に横たわる男
何処からやって来たのか
現人は気にも留めず行き過ぎる
この世にはおかしな事があり過ぎるのだ


ああ、、気掛かりは
トイレの窓越しに見捨てた男
潤んだ瞳と震える唇を思い出しては
何故か 駆け巡る血液の中心に集まる
不謹慎な 男であった


ひゅるるるる と風の吹いて
巻き上がる砂埃に
あいたたた! と
目をやられる 男であった


これからも これからも
宜しく 世界よ。





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