嘘つきは詩人の始まり(下書きよりの抜粋)/窪ワタル
 
得ないのだ。嘘の力を借りないで詩を書くことはできないし、本当の気持など、そう簡単に言葉にはならない。「悲しい」とおもったにしろ「嬉しい」とおもったにしろ、その気持を突き詰めて言葉にしようとすれば「悲しい」とか「嬉しい」と云うような曖昧な言葉にはならない筈だ。「悲しい」には「悲しい」の底に「嬉しい」には「嬉しい」の底に、言葉にしなければならないが簡単には言葉にならないもの、言葉にならないナニモノカが潜んでいるのだ。そのナニモノカを言葉によって捉えなおそうとする行為こそ詩作なのである。

この事を遡れば、たとえ架空の世界、想像の世界の事を書いていても、作者がある言葉を拾いだす過程では、自らの本質と
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