遠い場所へ届こうとする言葉 ??中村剛彦『壜の中の炎』について/岡部淳太郎
 
壜の中の炎」全行)}

 ここで早くも声はどこかへ届こうとしている。「あなた」と語られた存在、その元へ届こうとして、声は振り絞られている。定石通りの読み方をすれば、「あなた」とは恋愛対象となる人物であろう。だが、この「あなた」を、たとえば詩人が目指す詩の理想であるとか、あるいは宗教的な存在であるとか、いかようにも読み換えることは可能だ。しかし、重要なのはそんなところにはない。大切なのは、この詩人が厳かなやり方で「あなた」に向かって声を発しているというその事実だ。「あなた」はもしかしたらものすごく遠い場所にいる存在なのかもしれない。だが、それでも構わず、詩人は声を発する。ひたすら「あなた」の元に
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