遠い場所へ届こうとする言葉 ??中村剛彦『壜の中の炎』について/岡部淳太郎
 
元に思いを届かせようとして。
 「刻印」と題された詩は、この詩集に収められたいくつかの寓話ふうの作品の中でも最も簡潔な方法で語られ、それゆえに最も的確に抒情を引き出している成功作だろう。


{引用=老夫婦は山を下り広い原野に出た
そして夕焼け空を指差し
あれが一番星、二番星と
数えながら町へ向かった
 
やがて日は沈み辺りは闇に閉ざされた
老夫婦は空一面に輝く星々を指差し
あれが一番星、二番星と
数えながら歩き続けた
 
そのまま二人は町へ戻らなかった
時は静かに過ぎ去っていった
人々が気づいたのは随分のちのこと
幾千もの星が空には輝いていることに
 
(「
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