遠い場所へ届こうとする言葉 ??中村剛彦『壜の中の炎』について/岡部淳太郎
ッドナイト・プレス刊)は、そうした声が控え目ながらも確実に発せられている書物だ。そう。私はいま「控え目」と言った。この詩集に収録されている詩篇には人を驚かすような複雑な言語実験が試みられているわけでもなければ、多くの夜を必要とするような長い物語が綴られているわけでもない。それらの詩はぽつぽつと言葉少なに自らを語る。だが、何気なく読んでいるうちに突然鈍い痛みが襲ってくるような、忘れかけていた幼い日の感情が蘇ってくるような、そんな感触が喚起されてくる。決して派手ではないが、本物の抒情がそこにはある。
収録された三十三篇(ジェームズ・テイトとシルヴィア・プラスのそれぞれ二篇ずつの訳詩も含む)を順を追
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