遠い場所へ届こうとする言葉 ??中村剛彦『壜の中の炎』について/岡部淳太郎
 
 人が日常生活において言葉を発する時、それは普通ごく近い場所を対象にしている。家庭でも、職場でも、あるいは街中でも、言葉は近くにいる人に向けて、または自分がいるエリアの中に存在する人に向けて発せられる。自分の目と声が届く範囲。その中でしか人は声を発しない。だが、時に自らが存在するエリアを越えて、どこだかわからない遠い場所へ向けて声を発する者がいる。多くの場合、その声は日常の雑事の中で掻き消され、目的の対象に届くことなく消えてしまう。それでも、ある種の人間は遠い場所に向かって声を発することをやめはしない。そうした人間のことを人は芸術家と呼び、また詩人と呼ぶ。
 中村剛彦の詩集『壜の中の炎』(ミッド
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