古代人のヒッチハイク/岡部淳太郎
 
この世で初めて咽喉を開く者
となる。あいうえお。母音を慕いつつ歌え。



罅割れた空を走る
  この空の水分を誰もが欲している
そのあおが 鏡のような道に映る
ひとりきりで歩き
ひとりきりで立ち止まる
狭いだけの
母の子宮のようなテントの中で繰り返す生活
起き上がり
また新しいタイヤの軋る音をつかまえに行く
すべての命運をひとりの決意のみに
ゆだねることの 快楽
二十世紀末という
もうひとつの古代において
私はたしかに歩いていた



あおいうえ。うおえあお。魚が沈黙を守るほ
どに、人は静寂にしずむことは出来ぬ。だか
らこそ、海に溺れるよりも、
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