忘却についての、ささやかな省察 (1)/竜一郎
 
しまった!」 なぜなくなるのか。ふとしたことで、大火は起こる。本は燃える。単純な鉄則だ。たいていの木は燃える。木から作られた本も然り。写真も燃える。地震が起きて、破け、壊れる。洪水の発生によって、水に浸され、使い物にならなくなるものもあるだろう。日に曝され、ボロボロに朽ちるものもある。冗談のような自然の事象によって、消失してしまう多くのものがある。

 それでも、私たち人の手で〈忘却〉したものもある。「焚書坑儒」という言葉を、ご存知だろうか。中国で思想統制が行われ、儒教が厳しく弾圧された時代があった。彼らの経典は炎に食われ、儒者は土に食われた。つまり、本が焼かれ、儒者は生きながら土に埋められた
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