忘却についての、ささやかな省察 (1)/竜一郎
 
、青年はタミナに語る。「忘却を忘れればいいんですよ」と。忘却したことを覚えていれば、想起できるだろう。しかし、忘れてしまえば、そこに何かがあったことすら判らなくなってしまったのならば、どうだろうか。ひとは、たやすく記憶を見失ってしまう。幼子は親に問う、「それは、本当に〈そこ〉に、あったの?」

 忘却。幼年時代において、私は何を考えていたか。一昨日のニュースで、何の事件が報じられていたか。一年前に、彼に何を言ったか。「いったい、何を、これまでにしてきたのか?」 忘れたのはなぜか。あのひとが、あのこが死んだからか。撮ったはずの写真が失せたからか。「とにかく、何かがなくなったせいで、私は忘れてしま
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