あの、手紙は/たりぽん(大理 奔)
 


そんなことも忘れて働きだし
もう何年もたった頃
年賀状のやりとりだけだったお節介な
大家から一通の封筒が届いた
そう、まるで返しては寄せる波に惑う
浜辺の瓶のような、あの手紙

いっそ封を切って
手紙の思いを遂げてやろうか
それとも

天井の灯りに封筒を透かしながら
ふと、届けに行こうと思った
この差出人の住所に行ってみようと

それは意外にも近い場所
地下鉄を一度乗り換えてたどり着く
その住所は巨大なショッピングモールで
たくさんの往来が
手紙のふるさとを埋め尽くしていた

 僕は途方にくれる行き先のない手紙

ビルの屋上の隅っこに作られた
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